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研究概要

山口研究室は、生体高分子である酵素(蛋白質の中でも触媒機能を有した蛋白質)に焦点を当て、その機能を化学的に解明することを研究目的としています。

主な研究手法として以下のものがあります。

  1. 酵素発現系の構築(現在は大腸菌に酵素を作ってもらってます)
  2. 酵素精製法の確立(イオン交換カラムやゲルろ過カラムなどを主に使ってます)
  3. 酵素活性測定法の確立(分光光度計を主に使っています)
  4. 酵素の結晶化とX線結晶構造解析(高エネルギー加速器研究機構のPFを利用しています)
  5. 酵素阻害剤の探索

研究成果は、医療や環境に貢献することを目指しています。医薬系やバイオ系(ただし細胞・動物は扱いません)に興味がある学生にとっては、良い研究環境だと思います。

医療関係の研究

山口研究室では、院内感染で問題となっている「薬剤耐性菌」が産生する酵素の研究を行っています。

薬剤耐性菌が産生する薬剤耐性発現酵素の機能解析と阻害剤開発

細菌の薬剤耐性化は、社会問題にまで発展しています。理由は、今まで有効であった抗生物質や抗菌薬が細菌に効かなくなり、細菌感染症で命を落とすことがあるからです。

細菌の薬剤耐性機構は、1.薬剤作用点の変異(薬剤が結合できない)、2.薬剤分解酵素または薬剤修飾酵素の産生(薬剤が分解される、または薬剤が修飾されて作用点に結合できない)、3.薬剤透過性の低下(薬剤が細菌に入らない)、4.薬剤排出ポンプの機能亢進(薬剤が細菌内に入っても作用点に届く前に排出されてしまう)などがあります。
山口研究室では、2.の薬剤分解酵素または薬剤修飾酵素について酵素学の立場から研究を行っています。

感染症治療薬の開発を敬遠する製薬企業に代わって、大学が感染症治療薬開発に挑む

細菌の薬剤耐性化の解決策として、新規抗菌薬の開発が挙げられます。しかし私は新しい抗菌薬が開発されたとしても、すぐにその耐性菌が出現して、さらに問題となる可能性があるため、新規抗菌薬の開発は考えていません。これは、製薬企業が細菌感染症の治療薬開発に乗り気でないことからも選択として正しいと考えています。細菌(特に大腸菌)は、30分で新しい世代を生み出します。人間は約20~40年で新しい世代(子ども)を生みます。進化または適応のスピードが圧倒的に細菌の方が速いのです。そのため製薬企業は、新しい感染症治療薬を開発しても利益があまり得られず(感染症治療薬は投与期間が数日間であるため売れない、すぐに耐性菌が出現するなど)、感染症治療薬の開発には力を入れていません(エイズは別です)。
そのため山口研究室では、細菌の薬剤耐性化の原因である酵素に着目して、その機能解析を通じて阻害剤開発を目標としています。つまり薬剤耐性化された細菌の「盾」を無効化する方法で薬剤耐性菌の問題を解決しようと考えています。

以下に山口研究室で行っている薬剤耐性菌関係の研究テーマを挙げました。

(1)βラクタム剤耐性発現酵素
(2)アミノグリコシド耐性発現酵素
(3)細菌の多剤耐性化に関する遺伝子組み換え酵素

研究内容

画像をクリックすると大きいサイズでご覧になれます。

(1)βラクタム剤耐性発現酵素

βラクタム剤耐性発現酵素名古屋大学医学部、国立感染症研究所、国立国際医療センター研究所との共同研究で、抗生物質β-ラクタム剤を加水分解する酵素β-ラクタマーゼの研究を行っています。β-ラクタム剤は、病院で細菌の感染症治療(手術後の二次感染防止など)でよく使用されています。しかし細菌がβ-ラクタマーゼを産生するとβ-ラクタム剤が効かなくなり、感染症治療ができなくなります。これが院内感染の原因の1つです。
山口研究室では、β-ラクタマーゼ、特にβ-ラクタム剤の中でも切り札的に使用されるカルバペネム系β-ラクタム剤(緑膿菌に有効)を加水分解するβ-ラクタマーゼの研究を行っています。このβ-ラクタマーゼには、社会問題となっているメタロ-β-ラクタマーゼも含まれています。
この研究成果は、β-ラクタマーゼ阻害剤の開発や、β-ラクタマーゼ産生菌の検出試薬開発に活かしたいと考えています。
詳しくは、「阻害剤開発を目指したβ-ラクタマーゼの構造機能解析」をご覧ください。

(2)アミノグリコシド耐性発現酵素

アミノグリコシド耐性発現酵素名古屋大学医学部と国立感染症研究所との共同研究で、抗生物質アミノグリコシドの作用部位をメチル化するメチル基転移酵素の研究を行っています。アミノグリコシド系抗生物質は、緑膿菌感染症の治療薬としてよく使われています。しかし細菌がこの酵素を産生すると、アミノグリコシド系抗生物質が効かなくなり、感染症治療ができなくなります。これが院内感染の原因の1つです。
山口研究室では、アミノグリコシドの作用部位(細菌リボソームの30Sサブユニットにある16S rRNA)をメチル化するメチル基転移酵素の研究を行っています。
この研究成果は、この酵素を産生する細菌の検出試薬開発に活かしたいと考えています。
詳しくは、「アミノグリコシド耐性を発現させるメチル基転移酵素の構造機能解析」をご覧ください。

(3)細菌の多剤耐性化に関する遺伝子組み換え酵素

細菌の多剤耐性化に関する遺伝子組み換え酵素名古屋大学医学部と国立感染症研究所との共同研究で、抗生物質に対して耐性を発現させる酵素を多種産生する多剤耐性菌がもつ酵素の研究を行っています。抗生物質に対して耐性を発現させる酵素の遺伝子を「薬剤耐性遺伝子」と言いますが、この薬剤耐性遺伝子を多種取り込むことで、それらの酵素を産生し、細菌が多剤耐性化します(酵素型多剤耐性菌)。この多剤耐性化には、遺伝子組み換え酵素インテグラーゼが関与しています(HIVウィルスなどがもつインテグラーゼとは異なります)。
山口研究室では、多剤耐性菌が産生するインテグロンインテグラーゼ-1(IntI1)の研究を行っています。IntI1は日本で単離される酵素型多剤耐性菌の遺伝子中からよく発見されますが、その機能の詳細はよく分かっていません。
この研究成果は、この酵素を産生する検出試薬開発に活かしたいと考えています。
詳しくは、「薬剤耐性遺伝子を組み換える酵素インテグロンインテグラーゼの構造機能解析」をご覧ください。

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